大玄関に飾られた躍動感溢れる迫力の生け花作品

新春敬白

新年を迎え、有縁のご寺院におかれましてはますますご健勝のこととお慶び申し上げます。最近本坊を取り巻く環境が変化してきたように思います。今までの有縁のご門徒がお経付に参拝されるのと異なり、来寺される方の年齢が若くなり、寺院の由来に関心を持つ方、ロケ地巡りや、天井画を見に来られる方などさまざまです。新しい来訪者はネットやメディアからの情報をたよりに来こられるようです。西山廟所の方は近年「墓じまい」が目立つようになりました。少子高齢化の影響がお寺にも及びつつあります。地方では墓じまいに続き家じまいが起こり最後に寺じまいになると聞きます。我行精進・忍終不悔で進みたいと思います

 

本徳寺のニューウェイブ

本徳寺に関心を持たれている作家の一人に五木寛之氏がおられる。自著「百寺巡礼」で本徳寺を取り上げている。五木氏との出会いは、大広間天井画の竣工式で講演をしていただいた時に始まる。その後、五木氏の企画した「百寺巡礼」で亀山本徳寺が取り上げられた。中世の寺内町の風情を未だに残していると言うことらしい。その位置づけは江戸時代の本末寺ではなく、中世の播州門徒の寺という側面を前面に打ち出した構成である。テレビ朝日系列で何度か放映され、DVDも一般に販売されている。なるほど、歴史作家の鋭い視点もさることながら、これほどまでに本徳寺を印象づけた作品はない。興味のある方は、本徳寺に来訪の折、大広間の大型テレビ画像で今一度ご覧頂きたい。そのせいか、今でも五木氏のファン方が、来訪され、天井画の鑑賞は後をたたない。

昨年秋、トニー・ジャー主演の中国映画のロケが本徳寺・本堂(県文)で敢行された。今まで映画のアクションシーンを本堂で行ったことはなかったので、どうなることやらと内陣の横から注視していた。その時である撮影の始まる前に現れた主演のトニー・ジャーがとった態度に驚きの光景を見た。なんと彼はただ一人で本尊の正面に静かに正座して瞑想し礼拝し尊崇の念を身体で顕したのである。その間何と十五分。その他の役者や日本人スタッフは無関心の様子でおしゃべりをしていたのが対照的であった。

トニー・ジャーはタイ人である。タイは南伝仏教の聖地である。そこで育った一塊のアクターが演技の前に異国の仏前に深く頭を垂れ尊崇の念を顕すことは自然の行為であったに違いない。大乗とは異なる伝統を伝える南伝仏教ではあるが、釈尊の教の普遍性を思い起こすには十分であった。その後、本堂の二百畳を舞台に素晴らしい神技が披露されたのは言うまでもない。

このように近年、本徳寺は映画のロケ地にもよく利用されるため、ロケ地巡りの格好のお寺として認識されている。映画やテレビで、あるいはインターネットで本徳寺の露出頻度が多くなるにつれて、真宗門徒以外の観光を目的に来訪する人が多くなってきたことは否めない。このような人々に今のお寺は十分に対応出来ていないが、若者の来訪者がお寺の内部を拝観し、その仏教的雰囲気のなかで、仏前に手を合わせ、自らの存在について深い視野を広げるきっかけになれば、よしとせねばなるまい。

亀山本徳寺本堂で映画のアクションシーンを前に、俳優トニー・ジャーが1人本尊に手を合わせ礼拝・賛嘆する様子